冷たい舌
『龍神の巫女でさえなければと、お前は思わなかったと言えるかい、透子?』

 透子はその声に手を下ろして、顔を上げた。

 いつの間にか、見たこともない真青の空が透子の上にあった。

 声はその高みから降ってくる。

 透子はその雲間から見える光に向かって、微笑んだ。

「いいえ……いいえ、お祖母ちゃん。

 それだけは思ったことはないよ。

 だって、龍神の巫女でなければ、私は、こんなに和尚の近くにはいられなかった。

 和尚もいつも人と違うところを見ていた。

 私も、和尚と同じところを見ていたいの。

 どんなに楽でも楽しくても長生きできても、あの人と共有できない人生なんていらない」

 逃げ出したいほど辛いときでも、それだけは間違えようのない真実だった。

「龍神の巫女でなくなりたいと思ったことは一度だってないよ、お祖母ちゃん。

 だから、私のことは気にしないで」
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