冷たい舌
 ―今、見たものは何? これはまだ、夢の続き?

 いいえ。いいえ、違う……っ!

 ばっと透子は後ろを振り返った。

 遠く離れた祭壇の前で、小言を言っているらしい公人を無視しているその姿は確かに現実のものだった。

 夢とまったく同じ、白衣に浅葱の袴をつけた和尚がそこに居た。

 春日の遠慮がちな声が聞こえたが、透子は憑かれたように和尚を見ていた。

「透子っ!」

 公人が、淵から鋭い声で呼んだ。

「は、はいっ!」

 知らず、熱く湿っていた目尻を指で払い、慌てて駆け出そうとした透子は、はた、と気づいて振り返り頭を下げる。

 春日は苦笑しながら手を振ってくれた。



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