冷たい舌
 


 
 天満は公人に気づかれないように、氏子たちの後ろで神事の様子を窺っていた。

 公人の祝詞そっちのけで、小声で話している和尚と透子が見える。

 夏の始めの光が降りそそぐなかで、和尚の白い装束が目にも鮮やかだった。

 そんな和尚に嬉しそうに笑いかける透子の姿は、幸せな恋人同士以外の何物でもない。

「なんで僕にもう一度、こういうものを見せるかねえ」

 冗談めかして呟きながら、天満は榊を掲げた公人の後ろ姿をねめつける。

 ポケットの中で握りしめるのは、あの日忠尚に渡せなかったもの―

 永遠に自分を縛りつける罪の証。


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