冷たい舌
二人で祠を掃除したあと、水を打ち、その前に腰を下ろす。
透子は柏手を打ち、目を閉じた。
和尚は此処では絶対に柏手を打たない。
口の中で、小さく和尚に聞こえないよう、祝詞を唱える。
目を開けると、まだ何事か祈っている和尚が居た。白い肌に夕日がよく映えている。
鼻筋の通ったその顔を見ていると、夕闇の色を乗せた風に、和尚の後ろ毛が棚引いた。
つい触れようとすると、気配を感じたように目を開く。
透子は手を引き、微笑んで言った。
「髪……伸びたね」
和尚は後ろに手をやり、ちょっと、伸ばそうかと思って、と言う。
「は?
伸ばす? 誰が?」
らしからぬ言葉につい訊き返す。和尚はしゃがんだ膝に手を置き、溜息まじりに言った。
「この春から、本格的に檀家回ってるけど、年寄りは俺と忠尚の区別がつかねえんだよ。
あいつは、ほら、洒落っ気があるから、髪にも拘りがあるだろ。
だから俺が伸ばそうかと思って。
伸ばすだけなら、俺でもできるだろ」