冷たい舌
  


 静かな夜だ―

 だが、淵の水は、ねったりと紅く澱んでいた。

 巫女装束のまま淵に身を浸す透子は、その紅い水を掬ってみる。

 指の間から、ずるりとそれは滑り落ちた。妙な粘り気がある。

 なんだろう……これ。
 気持ちの悪いそれから目を逸らすように、空を見上げる。

 満月。
 透子にとっては、あるものの象徴だ。

 その満月が今は紅く染まっていた。気のせいか空自体が、どんよりと重く垂れ下がっているような気がする。

 淵と空の境が曖昧だった。その間にある黒ずんだ林を見ながら、透子は思う。

 月が紅いから、淵の水が紅く見えるのか。淵の水が紅いから、月まで紅く染まってしまったのか。
 
 
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