冷たい舌
「待て。お前の神? 龍神は?」

 龍神? と女は不思議そうに訊く。

 この世界には龍神が居ない?
 そんな世界が実在しているのか。

 ならば、この女は龍神の支配下にないはずだ。そんな期待が頭をもたげだ。

 だが、女は、ああ、あれか― と呟く。

「厄介な女どもが連れて来たのだ。
 私ひとりでは、この淵の呪力を守りきれないとでもいうらしい」

「連れてきた?」
 あの龍の顔をよく見てみろ、と女は笑う。

 龍の顔?

 龍神を殺した女と同じ顔で、その女は言った。

「それで? 私は何をすればいいのだ」
「何をって―」

 お前の望みを叶えるのだろう? と、どっちでもいいような口調で言う。

「今すぐに?」
「まあ、今だな。後になると、私は忘れるし、面倒くさい」

 その、気のない声に、だから、龍神を連れてこられたんだ、と突っ込みを入れたくなった。

 そもそも此処を守っているのも、たいした使命感があるわけでなく、かつて、誰かにそう頼まれたから、らしかった。
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