冷たい舌
 じゃあ、と、どもりながら、頭の中で算段する。

 ぶっ飛ばされるかもしれないが、この女なら、呪う、まではやっても、呪い殺す、まではやらない気がする。

 一生、いや、何度生まれ変わっても、きっとこんなチャンスは二度と来ない。

 覚悟を決めて、和尚は言った。
「俺のものになってくれないか」

「いいぞ」

「……あっさりだな」
「ああ」

「なんでだ?」
 心底そう思って訊き返す。

「なんでって、お前が望んだんだろうが」
 女は呆れたように言った。

「それはそうだが」
 いや、よく頼まれるんだ、と女は言った。

 その事も無げに放った言葉に、和尚はカッとなって言い返す。

「お前は頼まれれば誰とでも……っ、いや―っ」

 俺が口を出すことでもないし、人間じゃないから、倫理観も違うのかもしれないと思い、留まろうとしたが、胸の中で勢いづいたものは止まりそうにない。

 だが、女は、ああ、と笑い出した。

「お前たち人間とは違う。私はお前たちに夢を見せるだけだ」

 それも一応、相手は選んでいる、と付け足した。
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