冷たい舌
神降ろし
「あのねえ、お母さん! 今日、おでんが食べたいんだけどっ」
神楽の控え室代わりのテントに運ぶ道具を揃えるため、透子は右往左往していた。
昼の後片付けをしていた潤子は呆れたように娘を見る。
「今日は、お刺身と散らし寿司よ。なんでこのくそ暑いのに、おでんなのよ」
食べたいのー、と透子は廊下の方から叫んだ。
「お母さんのおでんが食べたいのー。
ほら、舞台の後に、おいしいものがあると思うと、気も弾むじゃない」
「お前はいつも弾んでるだろうが」
呆れたような声に透子は顔を上げる。
和尚が立っていた。
「和尚、いいところに。これ持って」
と化粧道具一式が入ったケースをその腹に押しつける。
おい、というのを聞かずに、
「えーっと、あと、何がいるんだったっけ」
と、うろうろし始める。
「お前、昔から緊張はしないみたいだけど、落ち着きがなくなるな」
違うわ、うろうろしてると緊張しないのよ、と言いながら、物を捜して隣の部屋に行こうとすると、ぐっと和尚に腕を捕まれた。
「いいか。俺は絶対、忠尚を許さないからな。
お前も同情して変に肩を持つな。余計腹が立つから」
少しの溜めの後、頷いた透子は、自分たちを見つめる視線に気がついた。
そちらに手を振って言う。
「いいところに、龍也。舞扇、何処にあったっけ」