冷たい舌
「お前、さっきから聞いてりゃ、いいところに、ばっかじゃねえか。
 少しは自分で管理して持っていけ。ほら」
と気の利いた弟は既に持っていた扇を透子の手に投げた。

 昨日のことを訊きたいのだろうに、何も言わなかった。

「拝殿にあったぞ」
と素っ気なく付け加える。

 ごめん、ごめん、と透子は手を合わせると、もう一度、居間の方を振り向いた。

「お母さん、春日さんが来たら、御神楽の後、テントにどうぞって言っておいて。お父さんは?」

「もう、行ってるんじゃないの?」
 あ、そう、と言うと、透子は和尚の手を掴んで言った。

「ほら、もう行こう」

「なんで俺まで」
「それ持ってって欲しいんだろ」

 そんな溜息混じりの龍也の言葉に、透子は首を振る。

「そうじゃないの。一緒に踊りたいのよ」

「なにいっ!?」
 二人は同時に声を上げた。
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