冷たい舌



 仮設舞台の手前、少し離れて左右に、二十メートルはある龍を模した矢倉が竹と松で組まれていた。

 日が落ちるのを待って、火が放たれる。

 歓声が上がった。

 燃え上がる木組みは、まるで天に昇ろうとする二匹の龍のようだった。

 片方の龍が口から炎のように、最期の煤を吐き、もう一方の腹をえぐるように倒れる。

 一際、観客の声が大きくなり、拍手が起こった。

 もう一方の龍も黒い埃のような火の飛沫を吐いて、倒れる。

 その炎から取られた火が、舞台を囲む篝火に灯された。

 最初は微かに。

 燃え落ちた龍の燻る音に消されるくらいに、筝の音が聞こえ始めた。

 やがて、間近で爆ぜる篝火の音よりもそれは大きくなる。

 ぼんやりと見える舞台に現れたのは、真っ白の装束の龍神だった。

 例年にないことに、前方が大きくざわめく。

 シャッターの切れる音とフラッシュの瞬き。

 遥か後ろで見ていた忠尚は、それが誰かを察した。
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