冷たい舌
 転調。

 曲が緩やかになり、舞台の端から手が覗いた。

 白い肌が此処からでも夜闇に浮き上がるように見える。

 小さな感嘆の声があちこちからあがる。

 透けるような千早の袖。普通のものより長い。
 それに引かれるように和尚が振り向く。

 紅い袴が見えた。
 透子が舞台に踏み出す。

 白と紅。
 微かに金の細い紋様が篝火にちらちらと反射する。

 だが、作りは至ってシンプルだ。それだけの衣なのに。

 歓声が漏れた。

 飾り気のない衣装の上を真っ黒な長い髪が滑る。

 透子は、けしてすべての髪を結い上げない。

 横の髪だけを上げ、斎王の飾りにも似た金と銀の髪上げ具を乗せていた。

 長い黒髪は、旋回する透子の動きに従うように、円を描き、舞い踊る。

 こいつは人間じゃねえ。

 長年側に居た忠尚でさえ、そう思った。
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