冷たい舌
「厭ですよ。

 忠尚連れてけばいいじゃないですか」

 斉上は顔の前で、手を合わせながら言った。

「まずいんだよ、忠尚。

 今日来る女の子の一人と、ちょっとあってさ」

 忠尚を睨むと、彼は誤魔化すような笑いを浮かべる。どうやら、前もって話はできていたようだ。

「じゃあ、同じ顔の人間が行ったら、ますます、まずいんじゃないですか?」

「いや、それは大丈夫だから」

 そう言う斉上に透子が、ピンと来た。

「斉上さん。
 もしかして、今日のコンパ。

 和尚を餌に釣ったんじゃないですか?」

 斉上が、ぎくりとする。
 やっぱり……。

 和尚は鈍いから自分では気づいていないが、今どき珍しい無骨さが受けるのか、口を聞いたことのない人間には密かに人気がある。

 あくまで、口を聞いたことのない人間に限られるが―

 ふーん、と透子は冷ややかに斉上を見た。
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