冷たい舌
「はいはい、先輩。
 用が済んだら、さっさと帰ってくださいよ」

 忠尚は箒の柄で、透子との間を遮断すると、そのまま、ぐいぐいと斉上を鳥居の方に押しやった。

「お前、先輩をなんだと思ってるんだ。

 この間も俺が目をつけてた子を横取りしやがって」

「ああ、あれね。
 小煩(こうるさ)いから返します」

「お前ね……。

 一応、俺にも常北(じょうほく)高校元アイドルのプライドが」

「そんなもん何の値打ちもありませんよ」

「お前のお古をもらうほど、落ちぶれてないっつってんだ」

 聞くに堪えない会話に、透子は耳を塞ぐ。

「ああ、やだやだ。

 こんな会話ばっか聞かされてるから、私、男性不審になって、好きな人が出来ないんだわ」

 ふと気づくと、和尚が、じっとこちらを見ていた。

「……なによ?」

 別に、と言う和尚の手を取ると、空いている方の手で後ろの二人を指して言った。

「和尚、あの二人みたいになっちゃ駄目よ」

「あの二人みたいにとは、どういう意味だ!」

「こいつと一緒にしないでよ、透子ちゃんっ!」

 そういうリアクションまで、そっくりだっつーの。

 軟派な友人二人に、透子は天を仰いだ。
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