冷たい舌
森に囲まれた古寺は、今日も静かな佇まいを見せていた。
長く、所々傾いた石段を上がったところに苔むした大きな石があり、『龍造寺』と銘打たれている。
そろそろ蝉も鳴き始めるシーズンだったが、滴るような緑に覆われた石段の下で、義隆の額をガマの油のような汗が伝っているのは、暑さのせいではなかった。
「もっ、申し訳ありません。
今、若いものに連絡を取らせていますので」
取り繕うような笑みを浮かべながら、自分の息子と変わらない年の男に深々と頭を垂れる。
透子が居ないと聞いて、帰ろうとした見合い相手を、なんとか石段の下の駐車場で留めはしたものの、実のところ、なんの当てもなかった。
透子の携帯は切れているし、忠尚のは音を切っているのか繋がらない。
今朝早々に連れて来られていた透子が、本堂であまりに暇そうにしていたので、法要先から忠尚が迎えに来させろと電話してきたとき、つい行かせてしまったのだ。
まさかあの義理堅い透子が逃げ出すなどとは思わなかったし。
ええい、忠尚めっ。あいつが唆(そそのか)したに違いない。
だいたい、潤子に見合いを進めてくれと言われたときから、厭な予感はしていたのだ。
薫子亡きあとも、その教えを強く守る透子が、見合いなどするはずもない。