冷たい舌
 だが、霊感の欠片もない潤子はそれでは納得しなかった。

『だあってえ、お祖母ちゃんはもう居ないのよ。

 透子だって、今は託宣のひとつも出せやしないんだから。

 そんなんで就職もしないで、大学残って、ぼーっと民俗学なんてやってるなんて、冗談じゃないわ。

 さっさと嫁に行って、後継ぎ作った方が神社のためだし、お祖母ちゃんだって喜ぶわよ』

 潤子の夫、大河(たいが)とは兄弟同然に育ってきたし、あけっぴろげで気のおけない潤子も、もう妹のようなものだった。その潤子に駄々を捏ねられると、義隆は弱い。

 ふいに目の前の男が口を開いた。

「透子さんは、本当は見合いなんかなさりたくなかったんじゃありませんか?」

 彼、春日介弥(かいや)は見るからに育ちのいい男だった。

 細身で長身だが、ひ弱そうなところもなく、高い鼻梁に乗った細い銀のフレームの眼鏡が厭味なく似合っている。

 見合いなどする必要もなさそうな感じなので、彼もまた、間に入った叔父に押し切られたのかもしれないと思った。

 いっそ、その方が助かるのだが―
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