冷たい舌
 春日は、義隆の大学時代の友人の甥で、同じく寺の息子だが、今ではその友人を手伝って事業をやっている。

 なかなかのやり手らしく、確かに法衣などより、今着ているスーツの方がしっくりくる感じだった。

 あまり浮ついたところもなく、大学で透子と同じ民俗学を専攻していたということだったから、これは意外と話も合うかもしれないと密かに期待していたのだが。

 義隆は嘆息を洩らしたが、春日は怒るどころか納得したように頷いていた。

「八坂に名高い龍神の巫女様ですからね。

 まあ、そう簡単に、僕みたいな男と見合いされるとは思いませんでしたけど」

「いえ、そんなことは……」

 春日は、年よりも遥かに落ち着いて見えるゆったりとした余裕ある笑みを見せた。

「民俗学を専攻してましたので、この辺りの祭りも一通り調べたんですよ。

 透子さんの噂も聞きました。

 見事な舞を舞われるそうで。残念ながら、僕は祭りには間に合わなかったんですけど」

 力を失っても、祭りのときに舞うその姿だけで、透子の名は有名だった。

「ああ、まあ、あの子はなんというか。
 一種独特の雰囲気がありますからね。

 幼い頃から見慣れている私でも、神事のときのあの子の姿には、はっとするものがありますよ」

 親莫迦にも似た気持ちでついそう言ってしまう。

 だが、贔屓目だけでなく、祀りごとのときの透子は、いつものへらへらとした彼女とはまったく違っていた。

 荘厳とも言える空気を醸し出す彼女に、和尚たちでさえ、圧倒されているようだった。
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