フキゲン課長の溺愛事情
第一章 彼氏の事情
「あれ、璃子(りこ)、もう帰っちゃうの? 今日の藤岡(ふじおか)課長の歓迎会、出席に丸してなかったっけ?」
水上(みなかみ)璃子がデスク下のカゴから大きめのハンドバッグを取り出したのを見て、隣の席の河原崎(かわらざき)沙織(さおり)が怪訝そうに言った。
「うん、行くよ。でも、歓迎会は七時からでしょ。六時半に啓一(けいいち)と会う約束してて」
璃子はブレスウォッチをチラリと見た。恋人との約束の時間まで、まだ十分ある。
「山城(やましろ)くんと? 一緒に住んでるのになんでわざわざ?」
沙織に言われて、璃子は小さく肩をすくめた。
「さあ。実は最近、啓一の仕事が忙しいみたいで。朝は私が起きる前に出社してるし、帰ってくるのも私が寝てからなんだもん。見ているものといえば彼の洗濯物だけよ。夕食だって手つかずだし。やっぱり研究所勤務だと、新しい研究開発が始まると忙しくなるみたいね。この二週間、まともに顔を合わせてないのよねー」
璃子はおっとりした啓一の顔を思い出しながら言った。
(だから、私の顔を見たいって思ったのかな。付き合って五年も経つのに、啓一ってば寂しがり屋なんだから)
水上(みなかみ)璃子がデスク下のカゴから大きめのハンドバッグを取り出したのを見て、隣の席の河原崎(かわらざき)沙織(さおり)が怪訝そうに言った。
「うん、行くよ。でも、歓迎会は七時からでしょ。六時半に啓一(けいいち)と会う約束してて」
璃子はブレスウォッチをチラリと見た。恋人との約束の時間まで、まだ十分ある。
「山城(やましろ)くんと? 一緒に住んでるのになんでわざわざ?」
沙織に言われて、璃子は小さく肩をすくめた。
「さあ。実は最近、啓一の仕事が忙しいみたいで。朝は私が起きる前に出社してるし、帰ってくるのも私が寝てからなんだもん。見ているものといえば彼の洗濯物だけよ。夕食だって手つかずだし。やっぱり研究所勤務だと、新しい研究開発が始まると忙しくなるみたいね。この二週間、まともに顔を合わせてないのよねー」
璃子はおっとりした啓一の顔を思い出しながら言った。
(だから、私の顔を見たいって思ったのかな。付き合って五年も経つのに、啓一ってば寂しがり屋なんだから)
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