フキゲン課長の溺愛事情
「じゃあ、なんで? 私のことが嫌いになったの?」
「そうじゃない。璃子よりも好きな子ができたんだ」
「そんなの意味わかんない!」

 啓一が唇を引き結んだ。

「だって、私たち、三年もずっと一緒に暮らしてきたのよ? それがいきなり、私より好きな子ができたって。そんなのおかしいじゃないっ!」

 啓一が黙ったまま視線を落とした。

「なんとか言ってよ、ねえ!」

 けれど、啓一はなにも言わない。璃子はカッとなって思わずテーブルに右手を叩きつけた。璃子のコーヒーカップとソーサーが大きな音を立てる。さすがにその音で周囲の注目が集まったが、もうそんなことにはかまっていられなかった。璃子は声を荒げて言う。

「どうしてそうなるのよ? この二週間、起きている間にほとんど会えなくて、それが今日わざわざ……」

 呼び出すなんて、と言おうとして、璃子はハッと気づいた。この二週間、朝起きたら洗濯機に洗濯物が入っていたから、啓一は璃子が寝てから帰ってきて、起きる前に出勤していたのだと思っていた。でも、本当は違ったの?

「啓一は……私と一緒のベッドで寝たくなくて……この二週間、私を避けてたの……?」
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