フキゲン課長の溺愛事情
 璃子は涙に濡れた目で啓一をキッと睨んだ。彼が明らかに動揺したように言う。

「な、なんでそう思うんだ?」
「私と啓一を〝さん〟付けしてるから」
「頼む。彼女のことを探し出していびるようなことだけはやめてくれ」
「いびるってなによ」
「彼女はなにも悪くない。責めるなら俺を責めてくれ。『五年も付き合って結婚を迷うのなら、一度璃子さんと離れてください。啓一さんはこれからもっとずっと活躍できる人だし、璃子さん一人に縛られないで』って言われて……つい」
「つい……手を出したんだ」

 そう言った璃子の声は、自分でも驚くほど低い声だった。

「俺が悪いんだ。ちょっと……酔ってて。彼女、かわいくて……『啓一さんに彼女がいてもいい。私が勝手に啓一さんのことを好きなだけだから』なんて言われて……。あんなふうに言われたら、彼女が頼れるのは俺しかいないんじゃないかって思って……それで……気づいたら彼女に本気になってた……。こんなことになって、本当に申し訳ない……」

 啓一がまた頭を下げた。

「私が別れたくないって言ったら……どうするの?」
「別れてくれるまで……何度だって頭を下げるよ」
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