フキゲン課長の溺愛事情
とたんに啓一の表情が険しくなった。璃子の前で彼がそんな表情をしたのは初めてだ。普段のおっとりした彼の様子からは考えられないその表情が、彼の心は完全に友紀奈のものなのだと物語っている。
「なに言ってんだよ。友紀奈がそんなことするわけない。友紀奈は『璃子さんを傷つけたくないから、しばらくは璃子さんに私たちのことは言わないでおいて』って言ってたんだ。それなのに自分から言うわけがない」
表情同様険しい彼の口調に、璃子はつぶやくように答える。
「だって……」
本当に彼女が自分で言ったんだもん、と言う璃子の声に、啓一の声が重なる。
「それに、友紀奈の仕事にケチをつけてるって話じゃないか」
「は? ケチってなに?」
「友紀奈の翻訳が間違ってるとかどうとか言ってるって聞いた」
「間違ってる、じゃなくて、もっとやんわりと言ったわ。『順番を変えた方が原文に忠実になる』って感じで……」
「けど、友紀奈は傷ついてた。提出した訳文が勝手に変えられていたら、普通そうだろう」
「でも……翻訳会社にも訳文を見直す校正者がいるじゃない。私は校正者じゃないけど、高井田課長だって目を通したし……適切な判断をしたつもりよ」
「なに言ってんだよ。友紀奈がそんなことするわけない。友紀奈は『璃子さんを傷つけたくないから、しばらくは璃子さんに私たちのことは言わないでおいて』って言ってたんだ。それなのに自分から言うわけがない」
表情同様険しい彼の口調に、璃子はつぶやくように答える。
「だって……」
本当に彼女が自分で言ったんだもん、と言う璃子の声に、啓一の声が重なる。
「それに、友紀奈の仕事にケチをつけてるって話じゃないか」
「は? ケチってなに?」
「友紀奈の翻訳が間違ってるとかどうとか言ってるって聞いた」
「間違ってる、じゃなくて、もっとやんわりと言ったわ。『順番を変えた方が原文に忠実になる』って感じで……」
「けど、友紀奈は傷ついてた。提出した訳文が勝手に変えられていたら、普通そうだろう」
「でも……翻訳会社にも訳文を見直す校正者がいるじゃない。私は校正者じゃないけど、高井田課長だって目を通したし……適切な判断をしたつもりよ」