フキゲン課長の溺愛事情

　啓一が小さく首を振って、吐き捨てるように言う。

「友紀奈は璃子みたいに強い人間じゃないんだ」

　その言葉を聞いたとたん、璃子は胸が燃え上がるように熱くなるのを感じた。吐き気がするくらいムカムカしてきて、さっきまでの感傷が燃え尽きてしまいそうなくらいだ。

「あなたは和田さんのなにを見てるの？」
「なにって……？」
「どうして彼女をそんなにかばえるの？」

　璃子の腹立ちのこもった口調に、啓一の声のトーンが落ちる。

「どうしてって……二週間前、後輩との飲み会に友紀奈が来てたんだよ。みんなで一緒に飲んでいるうちに、気づいたら彼女に『仕事のことで悩んでる』って相談されてた。『厳しいことばかり言う先輩がいるんです』って。『一生懸命仕事をしてるのに、いつも否定される』『私、きっとその人に嫌われてるんだ』って。で、話を聞いて慰めて、最後に『その先輩は誰なのかよかったら教えて』って聞いたら、『水上璃子さんです』って」
「なにそれ」
「驚いたよ。自分の彼女が陰で後輩をいじめるような女だったなんて」
「ちょっと待ってよ。どうして彼女の言葉を鵜呑みにして、そんなふうに簡単に決めつけられるわけ？」