フキゲン課長の溺愛事情

　啓一が大きく息を吸って、璃子を見返す。

「見たらわかる。友紀奈は俺が璃子と付き合ってるって言ったら、驚いて泣き出したんだ。『知ってたらこんなこと言いませんでした』って」
「そんなの信じられない。半年もＯＳＫ繊維開発に勤めていて、私と啓一の関係を知らなかったなんて……」
「あんなに罪悪感にさいなまれて涙を流す子が、嘘をつくわけないだろ」

　啓一がキッパリと言った。

（ああ、啓一はもう……私の言葉には耳を傾けてくれないんだ……）

　璃子の心に諦めの気持ちが湧き上がってきた。それでも、きっとこうして啓一と話すのは最後になるだろうから、と口を開く。

「和田さんがあなたの前でどう振る舞っているかは知らないけど、私は嘘は言わない。和田さんが自分から私に出て行ってって……啓一さんの今の恋人は私だって言ったから……私、こうして今日、鍵を返しに来たの」