フキゲン課長の溺愛事情
「なにを怒ってるんですか?」

 璃子の問いかけに、達樹がそっけなく答える。

「別に怒ってなどいない」
「眉間にしわが寄ってますが」
「俺はこういう顔だ」
「本当はそうじゃないって私は知ってます」

 璃子の言葉に、達樹は表情を緩めた。眉の間のしわが消える。

「恋は盲目だとしても、あれはひどすぎると思ったんだ。五年も付き合った相手に対して言う言葉じゃない」
「ありがとうございます。課長のその言葉だけじゅうぶんです。それに、不思議なことにもう吹っ切れた気がします」
「そうか」
「はい。ところで、課長は研究所に何の用事だったんですか?」

 璃子の問いかけに、達樹は右手に持っていたA4サイズの茶封筒を持ち上げて見せた。

「廃水再利用プロセス図のコピーをもらいに行ってた」
「紙のコピーだなんてアナログですね」
「なんとでも言え」

 達樹が足を速めるので、璃子はその背中に話しかける。

「すみません、課長には本当に感謝しています」
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