フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が歩調を緩めた。璃子は彼に並んで、でも視線をパンプスのつま先に落として言う。

「心が折れたとき、折れそうになったときに、そばにいてくれたから」

 達樹が足を止めた。璃子も立ち止まって彼を見上げた。達樹の端正な顔には、いたわりの色が浮かんでいる。

「放っておけなかったんだ」

 低くやさしい声で言われて、胸がじぃんとしてきた。

「課長……」
「ほら行くぞ」

 達樹が急かすように言って歩き出した。

 璃子は啓一への気持ちを吐き出すように、深く、深く息を吐いた。そうして息を吸い込みながら顔をあげる。見上げた空はすがすがしいくらいに青い。

「よし!」

 もう大丈夫。璃子は晴れ晴れとした気分で歩き出した。 
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