フキゲン課長の溺愛事情
 その言葉を聞いた瞬間、璃子は首筋が粟立ったような気がした。あわてて首筋をゴシゴシ擦りながら言う。

「だから、〝耳フー〟はやめてくださいってば!」
「俺からお楽しみを奪うなよ」
「課長を楽しませるために寝坊してるんじゃありませんっ」
「そうなのか? 水上は俺のツボを心得てるなと思っていたのに」
「ツボってなんですか、ツボって。課長のツボほど意味不明なものはありませんよっ」
「ツボって俺を楽しませるツボのことだよ」

 達樹にニヤニヤされて、璃子は頬を膨らませた。

(なぁに、あの顔! 会社で被っている〝不機嫌課長〟の仮面、いつか絶対剥がしてやるっ!)

 そう固い決意をしながら、同居三日目となる木曜日も、璃子は朝から上司手作りの朝食をいただいたのだった。



 達樹に朝食を作ってもらうことにも慣れて、気分良く出社した璃子だったが、先に出社していた沙織はデスクで不機嫌そうにコーヒーを飲んでいた。
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