フキゲン課長の溺愛事情
「おはよう、沙織。彼とケンカでもしたの?」

 璃子の問いかけに、沙織はマグカップをデスクにドンッと置いた。幸いにも中身は少なく、デスクがコーヒー色に染まるのは免れた。

「もう、和田さんには頭来たっ」
「えー、また和田さん?」

 璃子は半ばうんざりしながら言った。

「その和田さんよ。『パンフの英訳は来週取りかかります。仕上がり予定は未定です』って社内メールが来てた。この調子じゃ、来週になっても本当にやってもらえるのかわからないわ」

 璃子はため息をついた。

「昨日の昼休みに和田さんに引っ越したことを伝えたし、鍵も啓一に返したから、もう和田さんの気も済んだと思ったのになぁ……」
「私たちのなにが気に入らないんだろう」
「それ、私もわかんないよ」

 沙織が肩を落とした。

「こうなったら青葉くんの色仕掛けに頼るしかないかな」

 どこまで冗談なのかわからない沙織の言葉に、璃子は苦笑した。
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