フキゲン課長の溺愛事情
 声がかすれてしまい、咳払いをしてもう一度言う。

「啓一、顔を上げて」

 一生懸命穏やかな声を出した。啓一がそっと顔を上げる。

「啓一がそこまでその子のことが好きなら、別れてあげる」
「ホントに!?」

 啓一の顔にさっと赤みが差した。それがうれしそうに見えて、璃子の胸がえぐられたように痛む。

「そんなに……うれしそうにしなくてもいいじゃない」
「ごめん」
「私と過ごした五年よりも、その子との二週間の方が大切なんだよね?」

 啓一が慎重にうなずいた。訊いたのは自分なのに、彼の肯定の仕草にさらに胸の痛みがひどくなる。

「わかった」
「ごめん、璃子」
「私たち……同期だから、別れても友達でいられるかな?」
「璃子がそうしてくれるなら」

 まだ好きだからせめて友達でいたい。その言葉は伝えずに、璃子は小さくうなずいた。

「それで……」

 啓一が申し訳なさそうに口を開く。
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