フキゲン課長の溺愛事情
「すみません、仕事してたつもりが、つい……」
「まあ、十一時を回っていたからな。ずっと細かい字を見てたら疲れるだろう」
「それもあるんですけど……」

 璃子が肩を落としたのを見て、達樹が思いついたように「ああ」と声を上げた。

「廃水再利用プロセス図なら日本語のコピーがあるから、出社したら海外プロジェクト課に来い。あれにメンブレン・バイオリアクターの仕組みが日本語で詳しく書かれている」

 達樹の言葉に璃子の表情がパッと輝いた。

「ホントですか! わあ、助かります! それがあったら絶対に訳しやすいですよ!」
「アナログだけどな」

 啓一に鍵を返した帰りに言った言葉を引き合いに出され、璃子はバツが悪い思いで小さく舌を出した。

「わ、それ、ホントすみません。でも、どうして私がメンブレン・バイオリアクターで悩んでるってわかったんです?」
「パソコンをつけっぱなしにしたまま寝てただろ。念のため保存してスリープの状態にしてる」

 達樹が部屋の隅に視線を送った。璃子のノートパソコンが閉じられ、パンフレットと一緒に段ボール箱の上に置かれている。
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