フキゲン課長の溺愛事情
「あ、そうでした。重ね重ねご迷惑をおかけしまして」
「気にするな。それじゃ、あとで」

 達樹が背を向け、部屋を出て行こうとする。その背中に璃子は思わず声をかけた。

「あの」
「なんだ?」

 達樹が肩越しに璃子を見た。

「あの、昨日……課長が私をベッドまで運んでくれたんですよね?」
「ああ」

 彼の言葉とともに、額の温かくて柔らかな感触が蘇ってくる。

 あれはまさか、と思ったとたん、胸がドキンと打った。けれど、同時に、寝てたから夢かもしれないし、とも思う。

 璃子の悩んでいるような様子を見て、達樹の表情が怪訝そうなものに変わった。璃子はあわてて言う。

「あ、あの、もしかしてすごく重かったんじゃないかな~って」
「なんだ、そんなことか。心配するな。こう見えて一応男だ」
「一応」

 その表現に笑みを誘われた。
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