フキゲン課長の溺愛事情
 周囲に注目されていたことを知らされて、璃子は恥ずかしくなって首を縮めた。

「それに、水上さんの室長昇進は前から決めていたことだから、あえて再検討することもあるまい、というのが、環境都市開発部の課長クラス以上の意見だった」
「課長クラス以上の……?」

 そのなかには達樹も含まれているのだろうか、と璃子は思った。

「そういうわけだから、水上さんはこれからもこれまで通りの――そしてこれまで以上の――働きをしてくれるものだと我々は信じている」

 部長の言葉に璃子は内心ホッとした。けれど、それを表に出すことなく、キッパリと言う。

「ご期待を裏切らないよう、職務に専念いたします」
「期待しているぞ」
「はい!」

 部長に促されて、璃子は応接室から出た。どうしても緩みそうになる頬を懸命に引き締めながら出入口に向かう。ふと視線を感じてそちらを見ると、海外プロジェクト課のシマの課長席にいる達樹と目が合った。彼はほかの社員にわからないよう、璃子に小さくうなずいた。

(そっか……)
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