フキゲン課長の溺愛事情
 その仕草で、璃子は彼が今朝言っていた『いいこと』の意味がわかった。これまでのがんばりが評価されるぞ、ということだったのだ。璃子はうれしくてドキドキする胸を押さえながら、彼に向かって小さく頭を下げてオフィスを出た。

 広報室に戻ったとたん、沙織が不安そうに璃子に言う。

「どうだった? なにを言われたの?」

 璃子は一度息を吐いて、気持ちを落ち着かせようとした。けれど、どうしても興奮して体が震えそうになる。

「璃子……?」
「五月一日付けで室長になることになったの」

 言ってから、璃子はハッとした。沙織も璃子と同期で、新卒でこの広報室に配属されている。沙織も昇進したかったんじゃないかな、と不安になりかけたとき、沙織が大きな笑顔になった。

「おめでとう! よかったじゃない! 高井田室長の代わりになれるのは璃子しかいないと思ってたもん!」
「ホント? でも、沙織は……」
「私は面談で訊かれても、いつも昇進したくないって答えてたんだ」
「えっ」
「だって、昇進には興味ないし、結婚して妊娠したら仕事を辞めるかもしれないし。お給料はたいして変わらないのに責任だけ重くなるなんてまっぴら。そんなことより、璃子は高井田室長と一緒に遅くまで残って広報室の土台を築いてきたでしょ。私が璃子が室長に選ばれてよかったって思ってる」
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