フキゲン課長の溺愛事情

「〝不機嫌課長〟じゃなかったね」
「うん、ああ見えて課長は意外といい人なのよ」

　何気なく返した璃子の言葉に沙織が敏感に反応した。

「なになに、その〝課長のことはよくわかってます〟的な発言は！　もしかして……送ってもらった日とかインタビューした日とか、課長となにかあったの？」

　沙織に探るような目で見られて、璃子はあわてて片手を振った。

「な、ないよっ。なんにもないよ。ただの上司と部下の関係なんだから」

（今朝だって私を押し倒しといて、『おまえがムキになるからだよ』って笑ってたし。いくらなんでもあれは度が過ぎてたけどっ）

　あれで達樹を男性なんだと意識し直したなんて、本人どころか沙織たちに言えるはずはない。

「さあ、みんな仕事しよっ。ほらほら」

　璃子はまだなにか言いたげな沙織の背中を押して、席へと促した。