フキゲン課長の溺愛事情


 仕事の方は達樹にもらったコピーのおかげで順調に進み、パンフレットの和訳も仕上がった。沙織と優太の協力もあって社内報は無事に完成し、友紀奈とは木曜日の昼以来、接触はなく、璃子の一日は平穏に過ぎていった。

(啓一に振られて部屋から出て行ってくれって言われたときは、人生が終わるかと思ったけど……不思議と人生は続いていくんだね……。それも、こんなふうに仕事が評価されて良い方向に進むなんて……。課長がルームシェアさせてくれたおかげ、かな?)

 そう思うと、達樹に対して改めて感謝の気持ちが湧き上がってきた。

(まあ、迷惑な〝耳フー〟とか〝デコチュー〟疑惑とかは置いといて……今日は感謝の気持ちを込めて、〝うち飲み〟が楽しめるようたくさんの料理を少しずつ作ってみよう)

 帰りにスーパーに寄って食材を選ぶ。

(課長はなにが好きなんだろう。好きな食べ物とか、訊いといたらよかったな。なんでもおいしそうに食べてくれるけど……)

 毎回の料理を〝うまい〟と言って褒めてくれる彼の顔を思い出して、璃子の頬が緩んだ。

(もっと褒めてもらいたい。もっとうれしそうに笑ってほしい)
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