フキゲン課長の溺愛事情
「役に立てたのならうれしいよ」

 達樹は言って璃子に背中を向けた。

(広い背中……)

 そのスーツの背中に抱きつきたい衝動を覚え、璃子はあわてて首を振った。

(私はただの『おもしろい同居人』だから!)

 先にダイニングに入った達樹は、テーブルの上を見て顔をほころばせた。

「へえ、いいな、こういうの」
「でしょ? 今日はうち飲み、しましょ」

 達樹がネクタイの結び目に指を入れて緩め、ホッとしたように椅子に座る。

「さっそくいただこうかな」
「どうぞどうぞ」

 璃子は冷蔵庫から缶ビールと缶カクテルを取り出し、テーブルに向かい合って座った。そうして乾杯をする。

「一週間、お疲れだったな」
「課長もお疲れ様でした!」

 璃子が喉に流し込んだカシスオレンジがさわやかな香りを漂わせた。向かい側では、達樹がふんわりとしただし巻き卵に箸を入れている。
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