フキゲン課長の溺愛事情
 課長の朝食はおいしいから好きだ。こうして役割分担しながら暮らす生活を居心地良く感じていたし、昨日は彼のために料理をすることにドキドキしさえした。彼が『誰かのために料理をすること』を『意外と楽しい』と言ってくれて、課長も同じように感じてくれているのかも、と思った。けれど。

(美咲……って、課長が『泣かせた』人? 私をこうして住まわせてくれてるのは、私のためじゃなくて、課長が美咲さんへの罪悪感を忘れるためなの……?)

 璃子をからかっておもしろがっていれば、美咲という女性と暮らしたこの部屋にひとりでいる孤独感を忘れられるからなのだろうか。

 それを思うと、璃子の気持ちは重く重く沈んでいった。



 今朝は達樹が作ってくれたフリッタータ――ベーコンやブロッコリー、チーズ入りのイタリアンオムレツ――をおいしくいただいたのに、璃子の気持ちは少しも持ち上がらなかった。

 朝食後、達樹のメタリックブラックのSUVに乗せられて、奥美郷町に向かった。璃子がずっと黙っているので、信号で停車したとき、達樹が助手席の璃子を見た。
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