フキゲン課長の溺愛事情
「なんか空気の味が違いますね！　おいしい！」

　璃子の弾むような声を聞いて、達樹がホッとしたように言う。

「やっと機嫌が直ったみたいだな」
「あ」

　達樹の言葉に璃子は頬を赤らめた。今朝の彼の独り言に勝手にモヤモヤして不機嫌になっていたことが恥ずかしい。

（美咲さんのことは忘れよう。課長が私に親切にしてくれていることに変わりはないんだから）

「すみません」
「水上の機嫌を直すには、地鶏卵のプリンか絞りたて牛乳のジェラートのどちらがいいのか、悩んでいたところだ」

　達樹に言われて、璃子は不満顔で運転席を見た。

「また食べ物で釣ろうとしてたんですか？」
「いらないのか？　どっちもここでしか食べられない特産品だぞ」

　そんなふうに言われたら、食べ物で機嫌が直る簡単なやつだと思われていたことに憤慨していた気持ちより、食べてみたいという気持ちの方が勝ってしまう。自分でも子どもっぽいと思ってしまうが、仕方がない。璃子はあっさり不満顔を引っ込めた。

「いります。食べたいです」
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