フキゲン課長の溺愛事情
「入浴が終わったら、休憩室で待ち合わせよう」
「私、たぶんすごくゆっくり入ると思いますよ」
「気にするな。好きなだけ楽しんでこい」
「はい」

 璃子は達樹と別れて、〝女湯〟と書かれた臙脂色ののれんをくぐった。脱衣所でカットソーとカルソンパンツ、下着を脱いで、レンタルのフェイスタオルを持つ。温泉自体久しぶりで、ワクワクしながら内風呂へと続くガラス戸に手をかけた。

「わぁ……」

 スライドさせて開けたとたん、檜特有のすがすがしい香りにふわっとに包まれた。

 まずはかけ湯をして髪と体を洗って、温泉に入った。やや熱めの湯は気分をすっきりさせてくれる。

(露天風呂もあるのね……)

 璃子は外へと続くガラス戸を開けて、石段を下りた。その先に大きな露天風呂があって、年配の女性が数人と、ひと組の母娘(ははこ)が入っていた。母親の方は三十代半ばくらいのきれいな女性で、娘は三歳くらい、黒目がちの愛らしい顔立ちをしている。

 璃子は端の方にそっと入った。中よりも温めの湯が気持ちよくて、ゆっくりと手脚を伸ばす。

(あー……気持ちいい……)
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