フキゲン課長の溺愛事情
 母親の諭すような言葉を聞いて、璃子は思わず目を開けて微笑んだ。

(あの子のパパ、課長と同じこと言ったんだ。でも、課長の方はもっと偉そうだったよね。『好きなだけ楽しんでこい』だったし)

 課長は露天風呂と内風呂のどっちに入っているんだろう。

 そんなことを思ったとき、なんの前触れもなく達樹の言葉が耳に蘇ってきた。

『こう見えて一応男だ』

(こう見えて、私も一応女なんだけどなぁ……)

 美咲さんはどういう女性だったんだろう。彼がいまだに引きずっているのだとしたら、よっぽど魅力的な女性だったんだろうか。

 璃子はため息をついて、自分の体を見下ろした。胸は弾力もあって形もけっして悪くはないと思うけど、そそられるような谷間を作るには、谷間メイクブラに頼らなければいけない。下半身は引き締まっていると言えば聞こえはいいけれど、中学・高校・大学と硬式テニスをしていたので、逞しいと言えなくもない。

(あーあ、和田さんみたいなボンキュッボン体型だったら、課長も少しは女性だって意識してくれるのかな)

 寂しい気持ちでため息をついて湯から上がり、脱衣所へ戻った。
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