フキゲン課長の溺愛事情

　璃子は歓迎会の開始直前にどうにか滑り込んだ部屋の片隅で、達樹の言葉をぼんやりと聞いていた。

　畳の部屋の和風ローテーブルには、刺身やサラダなど、すでにいくつか料理が並べられている。

「腹減ったぁ……」

　同じ広報室の青葉優太(ゆうた)が璃子の隣でボソッと言った。彼は璃子と沙織の三年後輩で、広報室に配属されて今年で三年目に入る。

　璃子は無言で優太をチラリと見た。彼は璃子より背は少し高いが、童顔のせいもあって、チャコールグレーのスーツを着ていてもいまだに大学生のように見える。

　沙織が優太を見て呆れたように言う。

「あんたねー、次の社内報では藤岡課長を取り上げる予定なんだから、ちゃんと話を聞いてなさいよ。ねえ、璃子」

　同意を求めて璃子を見た沙織は、ハッと息を呑んだ。

「璃子？」

　怪訝そうに声をかけられ、璃子は唇を引き結んだ。歓迎会が始まる前に、マスカラとアイラインの落ちたメイクをトイレで直してきたのだが、目が赤いのはごまかせなかったようだ。

「ケンカ……したの？」