フキゲン課長の溺愛事情
 璃子は黙って首を振った。

 そのとき、部長の合図でみんながビールのグラスを手に取った。璃子も目の前のグラスにそっと手を伸ばす。

「藤岡課長の今後の活躍を祈願し、またみなさまのますますのご活躍とご健勝を祈念しまして、乾杯しましょう」
「乾杯!」

 璃子もグラスを両隣の沙織と優太のグラスと合わせ、それから近くの社員ともカチンと合わせた。

 堅苦しい挨拶が終わって宴会場は一気に和やかになった。戸襖が開いて、制服の和服姿の店員たちが揚げ物などの温かな料理を運んでくる。

 璃子はグラスに口をつけた。発泡性の苦い味はあまり好きではないが、〝苦い〟という気持ちがほかの気持ちを薄めてくれそうで、グラスの中身を一気に空けた。

「うわあ、さすが水上さん。いい飲みっぷりですねぇ」

 優太に言われて、璃子はじろりと彼を睨んだ。その刺のある眼差しを気にすることなく、優太はビール瓶を取り上げる。

「おかわりどうぞ」

 優太は璃子が黙って差し出した空のグラスにビールをなみなみと注いだ。

「ありがと」
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