フキゲン課長の溺愛事情

「はい。この四月に」
「お帰りなさい！　それで、こちらが石川さんなんですね!?　お目にかかれて光栄です！　五年前はお仕事で来られなかったそうで……」

　彼女のワクワクした声を、ふたりの後から入ってきた海翔が鋭い口調で遮る。

「こちらは藤岡さんの後輩で、ＯＳＫ繊維開発の水上璃子さんだ」
「あ……」

　彼女が一瞬にして気まずそうな表情になった。

「ごめんなさい、私ったら」
「でも、藤岡さんと水上さんのおふたりで、いずれエコハウスに泊まりに来てくれると思うよ」

　海翔の言葉に女性はホッと表情を緩めた。

「よかった。余計なことを言ってごめんなさい。こちらのお席へどうぞ」

　彼女に案内されて、璃子と達樹は厨房に近いテーブル席に向かった。店内を見回すと、カウンターに二席空いているだけで、ほかのテーブル席はすべて埋まっている。カジュアルな服装の客や、バックパックを置いている客がいる。地元の人や旅行者に人気の店のようだ。

「海翔も食べていくの？」