フキゲン課長の溺愛事情
　女性店員の問いかけに、海翔が首を振った。

「いや、俺はもう会社に戻るよ」

　言って達樹と璃子を見る。

「今日はお会いできてよかったです」
「こちらこそ。どうもありがとうございました」
「今度はぜひプライベートで来てください」

　達樹がお辞儀をし、璃子も彼の隣で頭を下げた。海翔の姿がドアの向こうに消えて、璃子は達樹と向かい合って椅子に座った。

「ここに来たら、俺はいつも奥美郷名物のイノシシ肉のココナッツカレーを頼むんだけど、水上はどうする？　ほかにもメニューはたくさんあるぞ」

　璃子は壁に掛けられた達筆のメニュー表を見た。豆カレー、タンドリーチキンなどほかにもメニューはあるが、〝奥美郷名物〟と言われたらやはりそれを食べたくなる。

「課長に聞いてから、私の頭の中にはイノシシ肉のココナッツカレーしかなかったんです」
「そう言うと思ったよ」

　璃子の言葉に達樹が頬を緩めて女性店員に注文を伝える。
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