フキゲン課長の溺愛事情
「それじゃ、イノシシ肉のココナッツカレーとサラダ、チャイをふたつずつお願いします」
「かしこまりました」

 女性店員が厨房に向かった。厨房には、コックコートを着た四十歳くらいの浅黒い肌の男性がいて、彼女は彼に注文を伝えた。

「あのふたり、ご夫婦なんですか?」

 璃子の問いかけに、達樹がグラスの水を飲んでから答える。

「ああ。若菜(わかな)さんとご主人のヴィクラムさんだ。ヴィクラムさんは南インド出身だよ。ふたりは留学先のイギリスで知り合ったらしい」
「ステキ!」
「結婚して彼女の故郷で店を開いたんだって。仕事で奥美郷に来たときは、俺はいつもここで食べてたんだ」
「じゃあ、五年ぶりの味なんですね」
「ああ、楽しみだよ」

 ほどなくして若菜がトレイをふたつ運んできた。

「ごゆっくりどうぞ」
「おいしそう!」

 目の前のトレイには、フレッシュな野菜サラダとチャイとともに、白みがかったカレールーのかけられたココナッツライスの皿が置かれる。

「いただきます!」

 璃子はパチンと手を合わせた。スプーンを取ってカレーをすくう。ライスとともに口に入れた瞬間、舌の上でほろりと肉が崩れ、口の中に甘さが広がった。
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