フキゲン課長の溺愛事情
「もう過去のことになったの」
「どういうことですか？　だって、水上さんたちは同棲して……もがっ」

　沙織が優太の口に竜田揚げを押し込んで黙らせた。

「空気読めないあんたは黙ってなさい。で、璃子、いったいなにがあったの？」

　璃子は手の中のグラスに視線を落とした。ぷつぷつと弾ける泡を見ながら小声で言う。

「ほかに好きな子ができたって」
「嘘……」

　沙織が息を呑んだ。

「嘘だったらどんなにいいか」
「だって……あんたたち、大きなケンカも倦怠期もなく今まで来たのに……」

　たっぷりと流し込んだビールが、璃子の胃の中で暴れ始めた。その気持ち悪さに押されて、璃子は吐き捨てるように言う。

「私は気づかなかったけど、啓一の中では倦怠期だったのかも。あいつ、この二週間、その彼女のところに泊まってたって」
「うっそ、なにそれ、サイテー！　相手は私たちの知ってる人？」
「たぶんね。でも、私にいびられたらかわいそうだからって、誰かは教えてくれなかった」
「ひどい、ひどすぎるっ！　山城くんってそんな男だったっけ？」
「そんな男だったのよ！」
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