フキゲン課長の溺愛事情
「彼女のことを、どちらかというとしっかりした気の強い女性だと思ってたから……彼女の涙を見たときはショックだった。幸せにしたいと思った人を苦しめるなんて、と自分が許せなかった」

 達樹の声がいつも以上に低く、彼の悩みの――罪悪感の――深さを伝えているようだ。璃子は胸が疼いて、彼の横顔を見ながら必死で言う。

「でも、課長だって苦しんだんでしょ? 美咲さんと仕事の間で悩んだんでしょ? なにかを犠牲にすることができなかったのは、課長もだけど美咲さんもでしょ? だったら、いつまでも罪悪感を持ち続けなくてもいいのに」
「ありがとう」

 彼の口角がふっと上がった。

「今はもう苦しんでも悩んでもいない。水上が隣にいるからな」
「私が……?」
「帰国して水上の仕事ぶりを見たとき、すごく仕事熱心で一生懸命な女性だなって思った。仕事にやりがいを持ってて……まるで美咲みたいだって」

 璃子の胸が締めつけられるように苦しくなった。

「だから、課長は私と美咲さんを重ねて見てたんですか……? 失恋して課長の前で泣いた私が、泣いて課長との別れを選んだ美咲さんと同じに見えて……?」
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