フキゲン課長の溺愛事情
　今朝、達樹がつぶやいていた『璃子が笑えるようになれば、俺の罪悪感も消えるかもしれないと思ったんだ』という言葉が蘇ってきた。

　好きになった相手が、自分に元カノの姿を重ねて見ていたなんて。

　璃子は黙ってうつむいた。鼻の奥がツンと痛んで涙がこぼれそうで、下唇を噛みしめてこらえる。

　達樹が横目で璃子を見た。今にも泣き出しそうな彼女に気づいて、左手を伸ばす。その手が璃子の頬に触れたかと思うと、ぷにっとつまんだ。

「なっ、なにするんですかっ！」

　達樹が左手をハンドルに戻した。

「水上に美咲を重ねて見た、というのは厳密に言えば違う。ふたりの状況を重ねて見た、というのが正解だな」
「また難しいことを……」
「もうこの話はやめよう。今は美咲の話はしたくない。せっかくこうして水上ときれいな景色を見てるんだから」

　達樹はそう言ったきり唇を引き結んでしまった。課長が元カノのことを思い出したくないのなら、と璃子は彼の言う通り、黙って窓の外の景色を眺めることにした。
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