フキゲン課長の溺愛事情
 達樹の右手が璃子の頬に触れ、すっと頬をなぞって顎に添えられる。

「璃子は?」
「わ、私も……まだ……課長と一緒にいたいです」

 璃子の返事を聞いて、目の前の達樹の瞳が強い光を宿してきらめいた。普段の無表情で……冷静で……ときに不機嫌な彼からは想像もつかないような、情熱的な眼差しだ。

「璃子」

 彼が長いまつげを伏せて、顔を近づけてくる。

「課長」
「今は会社じゃない」

 達樹のささやき声がして、璃子の唇に彼の息がかかる。触れそうで触れない、焦れったい距離。

「俺の名前、知ってるだろ?」

 彼の吐息が熱すぎて、璃子は頭がクラクラしてきた。

「呼んでみろ」

 必要最低限の短い言葉が璃子の思考回路を麻痺させる。
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