フキゲン課長の溺愛事情
「達樹、さん……」
「〝さん〟はいらない」
「課長を……呼び捨てになんて……」
「今は璃子の上司じゃない。ひとりの男だ」

 その言葉に璃子の体の奥が痺れるように熱くなった。

「……達樹……」

 小声で彼の名前を呼んだ。

「よくできたな」

 そう言って彼の唇が弧を描いたのは一瞬だった。

「璃子」

 熱を孕んだ声で名前を呼ばれ、唇を重ねられたとたん、璃子の背筋を電流のようなものが駆け上がった。一度目にした勘違いのキスのときにはなかった刺激。角度を変えて口づけられるごとに、体が熱くなっていく。

(キスだけで……こんなに)

 璃子は体の奥底から湧き上がってくる衝動のままに、達樹の首に両腕を絡めた。いつの間にか抱くようになっていた彼への気持ちを伝えたくて、彼の唇を貪る。
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