フキゲン課長の溺愛事情
 つい璃子は声を荒げてしまったが、歓迎会はすっかり盛り上がっていて、璃子たちの会話を気にしているような社員はいない。部長は上機嫌で、ほかの課の男性社員たちも盛り上がっている。一番賑やかなのは達樹の出向後入社してきた独身の女子社員たちで、無愛想ながらもイケメンの藤岡課長を囲んで、談笑していた。

 璃子が見たせいか、達樹が顔を動かして璃子の視線を捉えた。目が合って、璃子はあわてて視線を逸らす。

「五年も付き合ってたのに……」

 沙織のつぶやきに、璃子は友人の方を見て力なく言う。

「これが夢だったらいいのに……。課長の歓迎会で飲み過ぎて、寝てしまって悪夢を見ただけだったらどんなにいいか……」
「璃子……」

 沙織が璃子の肩に自分の肩をもたせかけた。璃子も沙織に体重を預け、彼女の肩に頭をのせる。頬を染めて気だるげに寄り添うふたりを見て優太が言う。

「わ……なんかふたりとも、雰囲気よすぎてヤバイですよ。エロい想像しちゃいそう」

 相変わらず空気を読まない後輩社員の声に、璃子はガバッと体を起こした。

「青葉くん、今日、あんたんちに泊めなさい」
「誰をですか?」
「私に決まってるでしょ」
「ええぇっ」
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