フキゲン課長の溺愛事情
 食べながら昨晩のことを思い出して、璃子の頬がだらしなく緩んだ。

「〝不機嫌課長〟じゃない達樹の顔、いっぱい見ちゃった……」

 ベッドサイドライトの淡い明かりの中、愛おしむようにやさしい目で璃子を見つめたかと思うと、次の瞬間には、野性的な眼差しで璃子を組み敷いた。上目遣いで璃子を見ながら、体のあちこちに舌を這わせ、キスを落とす。そのときの色気のある表情は、今思い出しても体の芯が熱くなる。

「いろんな課長が見られて幸せ……」

 昨晩の記憶に浸りながら食事を終えた。食器を片付けて、洗濯機を回す。いつもは別々に洗っていたが、こうして体を重ねる関係になったのだから、一緒に洗っても大丈夫だよね、と璃子は達樹の衣類も洗って干した。

(うわぁ、幸せすぎてどうしようって感じ……)

 でも、最近仕事でもプライベートでもいろいろあって大変だったから、このくらいのご褒美をもらってもバチはあたらないよね。

 ニマニマ笑いながら、掃除機をかけ始めた。廊下を通って玄関に行ったとき、ダークブラウンのシューズボックスの上に、小さな白い紙袋があるのに気づいた。無造作に置かれたそれから、エンボス加工の白い封筒と、ビニール袋に包まれたままの――つまり新品の――ご祝儀袋が覗いている。
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